『サイレントマジョリティー』
という曲が、欅坂46というアイドルグループの曲であります。サイレント・マジョリティとは声なき大衆のことです。
アメリカのニクソン大統領が演説で「グレート・サイレント・マジョリティ」という言葉を使いました。
この言葉の使われた演説は1969年11月3日のことです。当時、アメリカの内部でベトナム戦争に対する反対運動が一部の学生などにより行われていました。その折、ニクソン大統領は演説で、
「政治的運動や声高な発言をしない大多数のアメリカ国民は、ベトナム戦争に反対していない」
ということを発言しました。『サイレントマジョリティー』の歌詞の一文にこういったものがあります。
「どこかの国の大統領が言っていた(曲解して)声を上げない者たちは、賛成していると」
ここの歌詞はニクソン大統領の演説から来ています。
もちろん、これは曲解です。しかし、歴史的な背景としてはそれが事実となって起こっています。
ニクソン大統領は、歴史的過ちであるベトナム戦争を引き起こした当事者であるにも関わらず、1972年のアメリカ合衆国大統領選挙で大勝しています。
なぜ、人々は声を上げなかったのでしょうか?
目次
集団思考、集団浅慮
声なき大衆、声なき多数派になってしまう理由として集団思考(集団浅慮)と呼ばれるものがあります。
集団思考とは、集団で合議を行うときに不合理、危険な意思決定でも容認されてしまうことをいいます。
集団思考研究の第一人者、アメリカの心理学者アーヴィング・ジャニスは集団思考において一番大きく働く力のことを、
不敗幻想
といいました。不敗幻想とは、自分が属している集団こそ力があり、どんなことでも乗り越えられると考えてしまう幻想のことです。
不敗幻想が集団を支配すると、集団の結束を乱す反対意見は誰も言えなくなります。
これは戦時中の日本にも言えることです。仮によい意見があったとしても、多数派の意見でなければ否定され有効な対策を取ることが難しくなります。
神風特攻隊や人間魚雷など、あきらかに理にかなわない愚かな作戦を取ってしまったのも、国民のムード、ようするにサイレントマジョリティーの暴走であると考えられます。
集団の持つ力は強大で、なかなか抗いがたいものがあります。
多数派を変える手段
しかし、いつも少数派が敗れるかというと、そうでもありません。
フランスの心理学者セルジュ・モスコヴィッシが実証した、
マイノリティ・インフルエンス
によって大衆の意見に影響を及ぼすことができます。マイノリティ・インフルエンスは、日本語では少数派の影響といいます。
マイノリティ・インフルエンスには、2つの方法があります。
ホランダーの方略
モスコヴィッシの方略
ホランダーの方略
これは、過去にその集団に大きな影響を及ぼした人、あるいは貢献した人が使える作戦です。
一つの際だった特徴が、全体の評価も上げる心理効果をハロー効果(後光効果)といいます。周囲の人々には、その人が大きな存在に見えているので承認を得やすくなります。
ようするに、多数派に対する上からのアプローチです。
例えば、会社で新しい提案を出すとき、ちょっと無理目なものでも誰もが認めるリーダー的存在の人が出したものであれば、現場の士気が上がって前向きにさせたりすることができます。
モスコヴィッシの方略
対してモスコヴィッシの方略は、多数派に対して下からアプローチするというものです。
これは、実力のない人が多数派に向かって繰り返し自分の意見を主張し続けることで立ち向かっていくというものです。
何度も呼びかけることによって、多数派に自分の意見が間違っているのではないかと疑念を抱かせます。
デモ行動などはこれに当たるでしょう。何度も繰り返しデモを行うことによって、政治に影響を及ぼすことができます。
少数派は常に正しい?
以前、なにかの演説でこういった言葉を聞いたことがあります。
「少数派の意見は常に正しい」
・・・まあ、言うまでもなくこれは極端な例です。ただし、これは逆もまたしかりなワケで、
「多数派の意見は常に正しい」
ということではないですよね。日本人の政治に対する関心が非常に低い、という声を最近耳にします。
いや、これは昔からでしょう。明らかに政治的主張が出来ていない芸能人が、選挙に当選するのは正しいことでしょうか。民意が選んだから、正しいということにもなりません。
政治に限らず、多くの人は多数派に同調してしまうのではないでしょうか? そうであるのなら、やはり多数派の意見は間違った方向に行きがちになるのも頷けます。
自分を持て、という言葉ほど薄っぺらいものはありませんが、やはりイエスマンではいけないんだなと思います。