『江神二郎の洞察』著:有栖川有栖【ブックレビュー】

『江神二郎の洞察』著:有栖川有栖【ブックレビュー】

目次

アリスシリーズ

本棚に隠れるにゃんこ

有栖川有栖さんの有名なシリーズもののなかで、学生アリスシリーズと作家アリスシリーズがあります。

窪田正孝と斎藤工の主演でおなじみの、『火村英生の推理』は、作家アリスシリーズです。残念ながら作家アリスシリーズは数冊しか読んだことがありません。

学生アリスシリーズは、一応シリーズ全巻読んでいます。

こちらには火村英生ではなく、江神二郎という推理小説研究会の名探偵が登場します。別名江神二郎シリーズと呼ばれているものです。

江神二郎の洞察

今回呼んだのは、『江神二郎の洞察』という短編集です。

学生アリスシリーズの長編モノの、幕間の短編という位置づけです。シリーズを読んでいると、「あの話とあの話の間にあるんだ」という楽しみが増えます。

しかし、読んでいなくてもスターウォーズがどこからみても楽しいように、ミステリの妙に触れることができます。

全部で9本の短編が収録されているのですが、気に入ったものの感想を書いていきたいと思います。

瑠璃荘事件

名前でオチてる感半端ない(笑)

本格ミステリを読む人であれば一発で分かる、『りら荘事件』のパロディタイトルです。

りら荘事件は殺人が起こるのですが、この瑠璃荘事件はいわゆる日常の謎を扱った小説です。日常の謎というのは、ざっくり言うと殺人事件の起こらないミステリのことをいいます。

この作品は、学生アリスが推理小説研究会に入るキッカケとなった話です。

推理小説研究会のメンバー望月が、下宿先の瑠璃荘で窃盗の容疑を掛けられます。状況証拠は、犯人を望月であると告げているのですが、望月は自分は犯人ではないと推理小説研究会のメンバーたちに主張します。

そこで、江神二郎が瑠璃荘に出向き、事件を調査します。瑠璃荘の住人のアリバイを調べていくのですが、犯行時刻に瑠璃荘内にいたのは被害者と望月だけでした。

いわゆる「たまたまその状態になった」系のミステリです。

学生アリスはこうして推理小説研究会に入った。という物語なので、シリーズを読んでいる人は素直に楽しめると思います。

やけた線路の上の死体

群馬大津駅前の線路

正直、個人的に時刻表を用いたトリックはあまり好きではありません。ですが、この作品で扱われる時刻表トリックは少し違いました。

トリックの根幹は、時刻表ではなく、別のところにありました。

アリスたち推理小説研究会一行は、望月の実家へ泊まりに行くことになります。周囲を観光して望月の家に行くと、鉄道事故があったというニュースが耳に入ります。

電車の運転手の話によると、死体は線路の上に寝ていたと言います。しかし、死体を調べてみると、死体には生活反応がありませんでした。ようするに、電車に轢かれる前に被害者はすでに死んでいたということです。

当初は自殺と思われた事件が、他殺であると分かったのですが、今度は犯人を捜さなければなりません。望月家の知り合いの新聞記者から情報を集め、容疑者を2人に絞ります。そして、実行可能な犯人を突き止めるという話です。

犯人を突き止めると、アリバイ崩しが行われます。よくある流れなのですが、このアリバイ崩しのトリックが面白かった。先に時刻表を見せられていたので、読んでいる方としては、単純なアリバイ崩しだなという油断をしていました。

しかし、蓋を開けてみると電車のある特性を利用したトリックだったんです。もちろん、時刻表は使われるのですが、一ひねりあるトリックで非常に興味深かった。

ちなみに、この話は時間軸的には、有栖川有栖デビュー作『月光ゲームYの悲劇,88』の少し前にあたる作品です。

開かずの間の径

推理小説研究会が、幽霊が出るという噂の廃病院に行って真相解明するという話です。

怪現象が起きるのですが、その怪現象自体は会員の織田が起こしています。これは早くから明かされるのですが、肝心の織田がどこにいるか分かりません。

建物の中を探し回って、いると考えられるのは、この部屋しかないという状態になるのですが、その部屋には鍵穴がなく、ドアノブもありません。

開かずの間に入るのに、あるアイテムを使います。

そのアイテムと、そのトリックが分かってみると結構バカバカしいんですけど、分かったときにはなるほどなと膝を打つことになります。

ある物の隠し方が巧妙なんですね。さて、そのあるものとは・・・。

蕩尽に関する一考察

札束ドン(偽札)

一応、蕩尽(とうじん)がどんな意味なのかお伝えしておきます。

蕩尽 財産などを使い果たすこと コトバンクより

この話で、有馬麻里亜が推理小説研究会に入会することになります。事件に関わるというより、江神二郎の推理に感動して入会するという感じです。

古本屋の店主が、なぜか最近気前がいい。店の本をタダで上げたり、居酒屋にいる人間全員に奢ったり、端から見て奇行としか思えない。

店主がなぜ、そんな行動に出るのか。個人的に、動機は割と割と早いところで分かりました。

いや、分かった気になっていました。というのも、この店主の動機の説明には、僕が考えていた動機だけでは不十分だったんです。なので、半分当たって半分外れた状態でした。自分自身、詰めが甘いなと思った瞬間です。

手品とかでもそうなんですけど、表面だけ、上澄みだけ知ってすべてを知ったような顔をするのは、厚顔無恥の極みですね。

バイアスが掛かってしまうと、人間こうもアホになるかと赤面します。

作品は、非常にいいです。

まとめ

アリスが推理小説研究会に入る話が一番初めに来て、マリアが入会する話が一番最後に来る。よくできた構成です。

短編集なんですけど、シリーズを知っているとその珠玉の短編が連鎖的に繋がっていくので、ファンとしてはワクワクが止まりませんでした。

もちろん、学生アリスシリーズ初読者でも楽しめる内容になっているので、オススメです。

シリーズファンは必読!

学生アリスシリーズを読んだことがない人は、『双頭の悪魔』から読まれることをオススメします。

読書カテゴリの最新記事